イスラム教の断食月、ラマダンが始まりました。
ラマダンが始まる直前、海外居住者向けに、外務省の海外安全ホームページから、ラマダン月やその前後に世界中で多くのテロ事件が発生しているので注意するように、とのメールがわたしのところにも届きました。
これから数年はイスラム教のラマダンの期間はちょうど日本のゴールデンウィークに重なります。
ということは、ラマダン中にあたるゴールデンウィークのヨーロッパ旅行は危険なんでしょうか?
そこで、ラマダン期間でのテロの可能性をフランスではどのように考えているか、こちらで暮らしている中で感じていることや、注意点をまとめてみました。
ラマダン中のヨーロッパへの旅行は危険なのか?
ラマダンはイスラム教の暦であるヒジュラ暦の9月のこと。
この時期、多くのイスラム教徒の皆さんには、欲を抑え、日が上っている間は断食を行って体を清める習慣があります。
ラマダン月を西暦で換算すると、その期間は少しずつずれます。
始まりの日 | 終わりの日 | |
2013年 | 7月9日 | 8月8日 |
2014年 | 6月28日 | 7月28日 |
2015年 | 6月17日 | 7月16日 |
2016年 | 6月6日 | 7月5日 |
2017年 | 5月26日 | 6月24日 |
2018年 | 5月16日 | 6月14日 |
2019年 | 5月5日 | 6月4日 |
2020年 | 4月23日 | 5月23日 |
2021年 | 4月12日 | 5月11日 |
2022年 | 4月2日 | 5月1日 |
※2020年以降のラマダンの日程は変わる可能性もあります
確かに2019年から2022年まではイスラム教のラマダン月は日本のゴールデンウィークの期間にかかってしまいますね。
最近はテロも多いし、この時期のヨーロッパ旅行は避けるべきでしょうか?
結論から言うと、ヨーロッパ旅行の期間が、ラマダン期間に重なるので危ないということはありません。
むしろ、ラマダン月だからヨーロッパに来られないと考えると、どの期間であってもヨーロッパには来られないと言えます。
例えば、ヨーロッパのどの国を訪れても、教会は素晴らしい建造物です。
1つも教会を訪れずにヨーロッパ旅行をする方はほとんどいらっしゃないのではないでしょうか。
ヨーロッパの教会は、長い歴史の中で、その国を支配してきた宗教や宗派が変わるたびに、建築スタイルが異なるのも魅力です。
わたしはもう20年近くヨーロッパにいるのですが、ヨーロッパ各国の教会を訪れるたびに、その教会を作らせた人々、作った人々、それに祈りを捧げてきた人々に想いを馳せるのが好きです。
一方、残念なことに、世界中の観光客の心を引きつける宗教関連の建造物は、いかなる大きさのものであっても、テロのターゲットとなりえるのが現実です。
その他、外国人が多く利用するレストラン、ホテル、空港もターゲットになりやすいことは、日本でもニュースになっていますよね。
確かに数年前、聖なる月であるラマダン月に行われるテロは最も異教徒との戦いであるジハードにふさわしいと過激派がテロの実行を促す声明を出しました。
しかし、理由としてラマダンとの関係があと付けされる可能性はあったとしても、この時期でなくてもこのような建造物をターゲットにしてテロが起きる可能性は1年中あります。
ラマダン月だからヨーロッパ旅行は危ない、と考えることには全く意味がないと言えますし、少なくてもヨーロッパ側ではそのようにラマダン月のテロの危険性を特別視する論調はこのところありません。
またほとんどのテロは過激派と呼ばれる本当に少数の人たちが起こしているもので、普通のイスラム教徒の皆さんは敬虔な信者です。
ヨーロッパでイスラム教徒が多い国と、ラマダン中にテロの起きる可能性の高い国も、全く関連性はないです。
ラマダン中の海外旅行は危険なのか?
ラマダン中にイスラム教徒の多い国に訪れるときには、ラマダン月の断食を行っている人たちが水も飲まない日中(日の出から日の入りまで)は、観光客であっても思ったように食べ物が食べられないという問題点があります。
パリから遠くないフランス語圏ということもあり、わたしは北アフリカのモロッコを旅行するのが好きですが、ラマダン中に同じくモロッコに行った友人によると、観光スポットは空いていて回りやすかったそうですが、マクドナルドではイスラム教徒には日中食べ物を供さないために、レジでIDカードの提示が求められたそうです。
実際のところはIDカードで宗教がはっきり分かるものではないのですが、モロッコの法律ではラマダン期間中にファーストフード店は食べ物をサービスしてはいけないそうです。
また去年、チュニジアではセキュリティを理由にラマダンの期間中のレストランやカフェの閉店が法によって促されたようです。
断食を行っていたらテロの実行犯もテロを実行するのは難しいのではないか、という話を冗談半分にしている友人がいましたが、テロの犯人たちが真面目にラマダンの習慣を守っているかどうかわかりません。
そもそも、どんな宗教のイベントのタイミングであっても、テロの理由になってしまうのです。
本当にありがたいことに、日本では昨今このような宗教がらみのテロは起きていないですよね。
わたしはフランスの郊外から毎日パリの中心部まで電車で通っていて、いつかテロに遭うかもしれないと頭の片隅で考えながら生活しているので、日本の平和は本当に素晴らしいと感じています。
しかし、そんな日本にいても、毎日どんな事故にあうかわからないし、日本で起きる無差別の通り魔事件は、海外に住んでいる立場からすると、世の中を憂いた人が起こしたものとして、テロとの共通点を感じます。
こんなことからも、世界中どこにいてもわたしたちは危険と背中合わせで生活しているもので、ラマダン中の海外旅行が特別に危険という考え方には、ほとんど根拠がないということになります。
ラマダン期間中にフランスでテロの可能性はあるか?
現時点の最新のデータとして、2019年に発表されたObservatoire de la Läicité のデータによると、フランス国民の宗教の内訳は
- キリスト教 52%(48%はカトリック)
- 無宗教 34%
- イスラム教 3%
- ユダヤ教 1%
- その他 10%(7%は無回答)
となっています。
ただそれ以前の他の機関による調査ではその他が少なくなり、フランスのイスラム教信者の割合は国民の7%前後としているデータが多いです。
だいたい500万人くらいに相当します。
そのうちラマダンの習慣を行う人は約7割と言われていますが、テロを起こしているのはイスラム教徒の中でも過激派と呼ばれるほんの少数の人たちなので、この数字とテロの起こる可能性に関係は全くありません。
今年のラマダンが始まることを知らせるテレビのニュースでは、食事制限についての取材がされていましたが、ラマダンが始まったからテロに気をつけよう、といった報道ではありませんでした。
インターネットの記事も探してみましたが、今年になって書かれたそのような論調の記事は見つかっていません。
だからといってもちろん、フランス人はラマダン中にテロはないと思って安心しているわけでもないのです。
パリ、ニースと連続してテロが起こった頃、わたしの周りのフランス人は大抵「普通に暮らし続けること、それがテロに屈さないことになる。」と言っていました。
今、フランスの主な観光スポットの周辺の警備はかなり厳格になっていますが、それでもラマダン期間中にフランスでテロが起きる可能性はないとは言いきれないことは残念なことです。
でもラマダンだからフランスでテロが起きる可能性が著しく高くなるわけではありません。
ラマダン中でも、フランス人やフランスに住むわたしたち日本人のような外国人も普通に暮らしているし、シャンゼリゼ通りも地下鉄の駅にも、観光客の皆さんがたくさんいますよ!
今日の地下鉄。スペイン語を話されている皆さんでした。
もし今後フランスなどの海外旅行を計画しているときは、ラマダン時期など特定の時期が危ないと考えるのではなく、どんな時でも危険は潜んでいるものなので、特に慣れない環境で過ごす海外旅行では、
- テロに限らず全体的なトラブルを避けるために、日程的に無理な行程をたてない
- 警備の行き届かないひと気のないところや夜は不要に出歩かない
- 言葉に不慣れな時は特に、周りの行動に気を配って不審な人や人の流れがないか気をつける
というようなことを心がけて、フランスをはじめとするヨーロッパ旅行を楽しんでいただけたらなあと思っています。
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